
みなさんこんにちは。ベクトルのいしかわでございます。
ここ最近、SNS で「納品したデザインを AI で勝手に改変されて使われた」という嘆きをちょくちょく見かけるようになりました。
今回はこの問題に対して制作者は どう向き合うべきか を、僕なりに考えてみました。
なお、本記事は一般的な情報整理であり、個別案件の法的助言ではありません。具体的な契約やトラブル対応は、案件内容に応じて弁護士などの専門家に確認してください。
後半ではクライアントにどう伝えるか? AI 時代ならではの「クライアントとの新しい付き合い方」も書きましたので、参考になればと思います。
- 1. そもそも「納品したデザインを AI で改変して使われた」とは
- 2. 商習慣上どうなっているのか?
- 3. デザイナー目線だけで語ってないか?
- 3.1. そもそも、双方の前提がズレている
- 3.2. クライアント側にも事情がある(しかも AI で手軽になった)
- 3.3. 「改変するな」「AI改変は禁止」は契約に書いてあるのか?
- 4. 結局は契約内容次第でしょ?
- 5. 著作権契約書作成支援システムとかありますよ!
- 6. では、クライアントにどう説明すれば納得してもらえるか?
- 6.1. 法的根拠 — 著作権を譲渡しても「同一性保持権」は残る
- 6.1.1. 1. 著作財産権 — お金になる権利
- 6.1.2. 2. 著作者人格権 — 作った人の名誉を守る権利
- 6.1.3. 二つの違いの例
- 6.1.4. クライアントも制作者も勘違いしやすいポイント
- 6.1.5. 改変の扱いは契約で 2 つのパターンを選べる
- 6.1.6. 「第27条及び第28条所定の権利を含む」と書く理由(パターン A の補足)
- 6.1.7. 制作者には倫理的な分岐点がある
- 6.2. クライアントが AI を使って改変する事による弊害
- 6.2.1. ブランドの一貫性が崩れる
- 6.2.2. 元データが分断される
- 6.2.3. 著作権・類似性のリスク
- 7. 機密情報の流出リスク
- 7.1.1. 「できてます」と AI が嘘をつく問題
- 7.1.2. 納品仕様・運用ルールとの接続が破綻する
- 7.1. デザイナーが手を入れるからこそ得られる価値
- 7.2. 説明のコツは「短期コストは高く見えても、トータルコストでは安い」
- 8. AI とクライアントと、これからどう付き合っていくか
- 8.1. 法律と契約だけで縛るには、もう限界がある
- 8.2. AI 使うクライアントを敵にせず、提案の一部に組み込む
- 8.2.1. クライアント
- 8.2.2. 制作者
- 8.3. 再利用は自由でいい。代わりに「AI に渡す情報」を売る
- 9. 「揉め事」から「事業機会」に
- 9.1. 結局、戦略の説明力と運用責任を磨き続けるしかない
- 10. まとめ — 嘆く前にやれることは、こんなにある
- 11. おまけ — カスタマイズして使えるメール例文
- 12. 本当に最後に
そもそも「納品したデザインを AI で改変して使われた」とは
先日 SNS で、要旨としては「丁寧に作って納品したデザインを、クライアントが AI で色や文字だけでなくレイアウトまで変えて使っていて悲しい・怒っている」という投稿を見かけました。ここ最近同じような投稿をちょくちょくみかけます。
少し前までは専門のデザイン編集ソフトなどで手動でやる必要がありましたけど、今は AI に「もっと明るくして」「文字を大きく」「レイアウトを変えて」と頼めばサクッと変わってしまう。
クオリティの違いはありますが改変のハードルが一気に下がったわけですね。
そりゃデザイナー側からしたらいい気分ではない人が多いでしょう。
「しっかり相手の事を考えて最大限効果が出るように作り込んだのに、AI で雑に直されてる…」となると萎えますよね…。
そして SNS では、こうした投稿が出るたびに、デザイナー界隈が「ひどい」「訴えましょう」とかみなさん同調したりもしてます。
ただ、そのへんのコメントを見てると、
「あぁ…制作者目線だなぁ…」とも個人的には思ってしまうのです。
商習慣上どうなっているのか?
実態として、納品後のデザインを発注者側で改変するケースは、今までもそれなりにあったと思いますが、特に最近は AI ツールによって改変に対するハードルが一気に下がりました。
しかし多くの場合、契約書に「改変の可否」「著作権の帰属」が明記されていない。
AI 改変についてはなおさら未整備、という現場が大多数ではないかと思います。
法律的には、その制作物が著作権法上の 著作物(創作的な表現) にあたる場合、著作権は原則 制作者(デザイナー)に帰属 します。譲渡には契約上の取り決めが必要です。
ただ、職務著作にあたる場合や、契約・発注時のやりとり・利用目的などによって扱いが変わることもあります。
要するに、契約があやふやだと現場はグレー になりやすい、と。
AI 改変が普通になってきた今こそ、ここを整理しておかないと揉めるケースはどんどん増えそうです。
デザイナー目線だけで語ってないか?
少しだけ、僕の個人的感覚ですが…
そもそも、双方の前提がズレている
デザイナー目線:「制作物の著作権は自分が持っているのが当然。だから改変なんてもっての外!けしからん!」
クライアント目線:「お金を払って作ってもらったんだから自分の自由に使えるのが当たり前。」
このように、ちゃんと説明・契約してないと 両者の認識が最初からズレている というのが実情かと。
どちらが正しいという話以前に、このズレを放置したまま納品すると、そりゃAIで簡単に改変できるこのご時世揉めるよねと…。
クライアント側にも事情がある(しかも AI で手軽になった)
納品物が「自分の求めるもの」と一致しなかった場合、クライアントはどうするか。
- 修正をデザイナーに依頼すれば追加料金が発生する。
- 納得するクオリティになるまでに何回修正を出して、いくら払うのか…終わりが見えない。
- そもそもこのデザイナーに修正依頼し続けて納得のいくものになるの?
- 修正指示を出す側にも工数がかかる わけで、双方しんどい。
そこに AI ツールが普及したので、著作権に詳しくないクライアント目線で考えればまぁ「AI でサクッと直せるならその方が早いし安いんじゃね?」という思考にいたるのは至って自然でしょう。
「改変するな」「AI改変は禁止」は契約に書いてあるのか?
契約書に「改変不可」「生成AIによる改変は禁止」と明記されていなかったのなら、現場感覚としてはクライアントを全面的に責めにくい のが正直なところではないでしょうか。
著作権の譲渡条件やAI改変の扱いも、契約で曖昧なまま進む案件、けっこうあると思います。
「言わなくても常識でしょ」とデザイナーが思ってても、クライアント目線では「お金払って作ってもらったのだから後は自由にできるのが常識」と思うのも無理はないので、AI 改変が普及した今こそ、契約で明示しておきましょう。
…と、ここまでが 現場感覚 の話。
実は法律的にはちょっと違うのですが、それはこれは後でまた改めて言及します。
結局は契約内容次第でしょ?
なので結局、こういう話に落ちます。
改変の可否、著作権の帰属、著作者人格権不行使特約の有無(後で説明します)、二次利用の範囲、修正回数の上限、そして AI 改変・AI 学習データ利用の可否——
これらを 契約段階で明確化 するのが本来の解です。
正直、デザイナー側がこれをやってこなかったツケが回ってきている面はあるんじゃないかと思います。
でもね、そんな事ドヤ顔で言われたってさ、実際 「契約書の作成」「契約内容の説明」だけで時間かかる ので、そんな事してたらそこそこの規模の案件ならまだしも 小規模案件だとただでさえ薄利なのが採算もへったくれもない って感じになりますよね。
それに 細かい著作権縛り伝えたら「あ、それならいいっす」って言われちゃうリスクもある からまぁ特に触れずに進めちゃう事もありますよね…
(´;ω;`)
でもそれだと勝手にどんどん改変されてしまう世の中になりました。
だからみんな!逃げちゃだめだ!
著作権契約書作成支援システムとかありますよ!
「でも法律の事よくわからないし…」と思ってるそこのあなた!こんなのもあります。
参考になるのが 文化庁の著作権契約書作成支援システム(https://pf.bunka.go.jp/chosaku/chosakuken/c-template/)。
例えば「イラストの作成(ポスター・パンフレットなどの作成)」から必要事項を入力すると契約書案が作れます。文化庁のシステムもあくまで契約書案の作成支援なので、実際に使う時は内容を理解したうえで、案件に合わせて手直ししたり専門家に確認したりしてください。
AI 改変が普通になってきた今こそ、契約に AI 関連条項 も入れるべき時代です。
自分の制作物を守りたいなら、まずは契約から、ですね。
では、クライアントにどう説明すれば納得してもらえるか?
ここからが今回の本題です。
「もう改変されちゃった」「これから改変されないようにしたい」——どちらの場面でも、クライアントを納得させる説明力 が、その後の関係に大きくかかわります。
明日から使える説明セットを整理していきます。
法的根拠 — 著作権を譲渡しても「同一性保持権」は残る
ここは多くのクライアントだけでなく、実は多くの制作者も認識違いをしているケースが多そうです。
「お金払って買ったんだから、自由に使えるよね」と思っているクライアント、多いですよね。まぁ気持ちはわかる。
ですが、日本の著作権法には 2 種類の権利 が並んでいます。
1. 著作財産権 — お金になる権利
複製権、翻案権、譲渡権、公衆送信権など、「この作品でお金を稼ぐ権利」の束です(著作権法 第21条〜第28条あたり)。これは 契約で譲渡可能 です。家や車みたいに「もの」として扱える権利、というイメージ。
2. 著作者人格権 — 作った人の名誉を守る権利
公表権、氏名表示権、そして 同一性保持権。「作品には作者の人格が宿っているから、勝手に世に出したり、作者名を消したり、内容を改変したりしないでね」という権利です。
そして決定的に大事なのが、著作者人格権は譲渡不可 だということ(著作権法 第59条)。作った本人に紐づいた権利です。
二つの違いの例
- 著作財産権 = 不動産の所有権みたいなもの。売れる、貸せる、譲れる
- 著作者人格権 = 自分の名前みたいなもの。誰かに譲ることはできない
自分の描いた絵で言うなら、「絵を売って稼ぐ権利」が著作財産権、「俺が描いた絵だから勝手に塗り替えるな」が著作者人格権、という感じでしょうか。
同一性保持権の条文はこんな感じです(著作権法 第20条)。
「著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする」
要するに、同一性保持権が問題になる場面では、改変前に著作者の同意や契約上の整理をしておくのが安全 ということです。デザイナーにとってめちゃくちゃ重要な権利です。
ただし、そもそも対象物が著作物にあたるか、どの程度の改変なのか、不行使特約や事前承諾があるのか、著作権法第20条第2項の例外にあたるのか、などで結論は変わります。
Web デザイン、グラフィックデザイン(チラシ・名刺・ロゴ・パッケージ・装丁)、イラスト・キャラクター、写真、文章などでも、具体的な表現に創作性がある場合は同一性保持権が問題になり得ます。ただし、デザインのアイデア・コンセプト・単なるレイアウト指定まで何でも保護されるわけではありません。
クライアントも制作者も勘違いしやすいポイント
契約に 「全著作権譲渡」 と書けば、改変は OK になるのか?
それだけでは足りない場合があります。あらびっくり。
法律上「著作権」は 著作財産権のみ を指すと解釈されているようです。著作者人格権は別物で譲渡不可。なので「全著作権譲渡」と書いた契約でも、同一性保持権の問題は残り得ます。改変まで自由に許すなら、著作者人格権不行使特約や、改変をどの範囲まで認めるかの合意を別途整理しておく必要があります。
「え?そうなん?それじゃ全著作権譲渡になってないじゃん?」
と思いますよね?
そうなんですよ…。これが意外と知られていないポイントです。
改変の扱いは契約で 2 つのパターンを選べる
「全著作権譲渡」と書いた契約だけだと、上述のとおり改変まで当然に自由になるとは言い切れません。
移すかどうかは契約書の書き方次第になりますが、どちらを選ぶかは、デザイナーの意向 × 料金感 × クライアントとの関係性 の兼ね合いで決めればいいと思います。
両方が「アリ」だと知ったうえで、案件ごとに使い分ける事になると思います。
パターン A:クライアントに自由を渡す(全譲渡+不行使特約)
「クライアントが自由に改変・再利用できる状態」を作りたい場合のパターンです。料金はその分しっかりもらう。
ここでは契約に 「著作者人格権不行使特約」 を入れるのが一般的です。あわせて、どの範囲の改変・再利用・第三者利用を認めるのかも書いておく方が安全です。
文言例(シンプル版):
乙(著作者)は、甲(クライアント)に対し、
本件成果物に係る著作者人格権を行使しない。
文言例(全部譲渡する場合の例・著作権譲渡条項とセット):
1. 乙は、本件成果物に関する著作権(著作権法第27条及び第28条所定の権利を含む)
の一切を、対価の支払いをもって甲に譲渡する。
2. 乙は、甲及び甲が指定する第三者に対し、
本件成果物に係る著作者人格権を行使しない。
「譲渡」ではなく 「行使しない」 という言い方になっているのは、譲渡が法律上できないからです。
「権利は持つけど、行使しないと約束する」という建付けです。
パターン B:デザイナーが改変をコントロールする(著作権留保 or 都度同意)
「品質や作風を守りたい、改変は自分の手を通したい」というデザイナー目線のパターン。代わりに料金は抑えめにできる、というトレードオフですね。
文言例(著作権を制作者に留保するパターン):
1. 本件成果物に関する著作権は、乙(著作者)に留保される。
2. 甲(クライアント)は、本件成果物を本契約の目的の範囲内で利用することができる。
3. 甲は、本件成果物を改変・翻案する場合、事前に乙の書面による同意を得るものとする。
文言例(一部譲渡+翻案権は留保するパターン):
1. 乙は、本件成果物に関する複製権、譲渡権、貸与権、公衆送信権を甲に譲渡する。
ただし、翻案権(著作権法第27条)
及び二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(同法第28条)
は乙に留保する。
2. 甲は、本件成果物の改変を要する場合、乙にその旨を申し入れ、
乙の対応によるものとする。
このパターンだと、改変が必要な時はクライアントがデザイナーに相談・依頼する流れを作りやすくなります。長期の運用案件・継続契約に向いていますね。
どちらを選ぶかはケースバイケース
| 観点 | パターン A(自由化) | パターン B(コントロール) |
|---|---|---|
| 向いている案件 | クライアント側で派生展開したい | 作風・品質を守りたい |
| 料金感 | 高め | 抑えめでも OK |
| 関係性 | 単発取引で「完納品」したい | 運用パートナーとして長期で関わりたい |
繰り返しますが、どちらが正解というわけではない んです。デザイナーの意向と、料金感、クライアントとの関係性で決めるべき話。
「うちはパターン B でやりたいです」と先に伝えて、料金や条件の合意を取る、というのが理想形ですね。
「第27条及び第28条所定の権利を含む」と書く理由(パターン A の補足)
パターン A の例にあった 「第27条及び第28条所定の権利を含む」 という一文。地味ですが、これも重要なポイントだと思います。
第27条(翻案権)と第28条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)は、契約で 特掲(明記)しないと譲渡者に留保されたものと推定される ということになっています(著作権法 第61条第2項)。
つまり「著作権を譲渡する」とだけ書くと、翻案権と二次的著作物の利用に関する権利 が制作者側に残ると推定される可能性があるので、パターン A の例では明示しているわけです。
「全著作権譲渡」と書いたつもりの契約が、実は「全部」になっていないケースがあり得る。
え?それもどうなん?と個人的には思ったりしますが、法律は難しいですね…。
ちなみにパターン B(翻案権を留保するパターン)でも、ここを明示しておくと「翻案権はデザイナー側に残ってますよ」という建付けが明確になります。
実際の契約は弁護士などの専門家にチェックしてもらった方が安心ですので、ここの文言例はあくまで参考程度でよろしくお願いいたします。
制作者には倫理的な分岐点がある
ここまで読むと、僕のように心の曇った人は
「え?そうなん?じゃ『全著作権譲渡って書いてるからちょっとお値段高いんですよ〜。ご理解お願いしますね〜。』って説明して高額で納品して、クライアントが改変したら『おま何勝手に改変しとんねん!』ってクレーム入れて著作権料とか追加作業受注できるじゃん!ぐへへへへへへ。」
とか思ったりするかもしれません。
まぁでもそういう事する人は長くは続きませんよね。
倫理観に沿った商売をしましょう(・w・;
❌ 非推奨:契約には「全著作権譲渡」とだけ書いておき、パターン A/B どちらでいくかも整理しないまま納品。後から改変を見つけて「同一性保持権侵害だ!」と訴える。権利主張の余地があるケースもありますが、契約の穴を後出しで突いている格好なので、クライアントは「だったら最初から言ってくれよ…」となって 信頼を失いやすい です。
✅ 推奨例:契約段階で「パターン A(クライアントが自由に使いたい)/パターン B(うちが改変対応します)、どちらでいきますか?それぞれ料金もこう変わります」と先に並べて提案する。クライアントは納得して選べるし、後の改変トラブルも回避できるし クライアントも信頼してくれます。
クライアントが AI を使って改変する事による弊害
続いて 実害ベース の説明材料です。
ブランドの一貫性が崩れる
ブランドとして洗練されていると感じるかどうかは一貫性が最も重要です。
AI は元のデザインに至った経緯を全て把握しているわけではありません。
色のニュアンス、フォントの選定意図、余白のロジックが少しずつズレていきます。
「家族経営の地域企業なのでそんなにこだわりないです」とかであれば無理にとは言いませんが、ブランドイメージでサービス単価の説得力や顧客満足度は大きくかわるので、その価値を理解している企業であれば、ルールや経緯を把握していない AI による安易な改変はするべきではありません。
元データが分断される
PSD・AI・Figma などのデザインの元データが更新されないまま、改変後の画像だけが世に出る。
- 次の派生作業で最新版の元データがあるのかわからないからとりあえず探したり確認しないといけない
- 次の派生作業で元データから作れなくて余計工数・コストがかかる。
著作権・類似性のリスク
AI が生成・改変した画像が、既存の著作物と似てしまうケース。著作権侵害になるかは、基本的には既存著作物との 類似性 や 依拠性 などで判断されますが、商用利用で問題化した場合、誰がどこまで確認・責任負担するのかはかなり揉めやすいところです。
機密情報の流出リスク
外部 AI サービスに未公開デザインや機密情報をアップロードする時点でリスクです。
学習データに使われる規約のサービスを使っていないかなど、確認していますか?
サービスによっては入力データが学習や品質改善に利用される可能性もあります。第三者が似たデザインを出力できる可能性が上がったり、未公開情報の管理上の問題につながったりしないか、利用規約と社内ルールの確認は必須です。
「できてます」と AI が嘘をつく問題
ブランドガイドと共に AI に修正指示を出しても、AI は自信満々に「ブランドガイドに沿った修正です」と返してきます。
検証する目(つまりデザイナー)がないと、誤りに気づけません。
納品仕様・運用ルールとの接続が破綻する
これは 3 職種それぞれで起きます。
- Web 制作の場合:WordPress テーマ・ブロックエディタの仕様、画像サイズ・ファイル形式・命名規則などの実装ルールが守られない → 表示崩れ、読み込みエラー、SEO 悪化、バージョン管理ができない
- 印刷・グラフィックの場合:CMYK / RGB、入稿フォーマット、トンボ、ベクター / ラスター、解像度などの印刷仕様が崩れる → 印刷事故・色ズレ・想定外の仕上がり
- イラストの場合:商業利用の許諾範囲を超えた使われ方、二次利用の取り扱いミス、改変による作風の毀損
特に印刷物のデータを画像だけをもとに AI が改変して「こんな感じで使えるデータにして」
と渡されても、
- ディスプレイ上では普通に見えても印刷には解像度が足りなくて印刷すると荒くなる
- AI が改変したものが印刷用の色やカラーフォーマットと違うので、そのままでは今までのものとの色ずれが発生する
- AI が改変したただの画像を入稿用フォーマットに作り変えるのに工数がかかるので、むしろ割高になるケースも多い
というようにリスクも多いので、AI は便利ではありますが勝手にいじらないでください。
…と伝えてはどうかなと思います。
デザイナーが手を入れるからこそ得られる価値
逆に、デザイナーが手を入れる価値は以下のようなものが挙げられます。
- 設計時のロジックを理解している人や組織が触るので、ブランドの一貫性が保てる
- 戦略的判断 が伴うので、その場しのぎの修正にならず、ブランド戦略と整合する
- 解像度・フォーマット・実装互換などの 技術的な品質を担保 できる
- 将来の運用・拡張に備えた修正 ができる
- 元データを一元管理 しているので、派生作業が常にスムーズ
- 著作者人格権絡みの法的リスクを未然に防げる
- 仕上がりに 責任を持つ人 がいる安心感
- イラスト・キャラクター系では 「作風の保持」と「二次利用の管理」 が特に重要
説明のコツは「短期コストは高く見えても、トータルコストでは安い」
クライアントが自分で(または AI で)直すと、目先のコストは確かに安く見えます。先ほども少し触れましたがコストが裏で積み上がります。
- ブランド毀損リスク
- 法的トラブルリスク(同一性保持権侵害・著作権類似性)
- 機密情報の流出リスク
- 次の派生作業で元データが使えないコスト
- 表示崩れ・実装トラブルの対応コスト
- 信用毀損による機会損失
これらを踏まえて、「見えにくいけど確実に発生するコスト」として説明して、
「AIで修正すると一見安く見えますが、実際やってみると結局 AI の方が高くなったとか、同じくらいかかったのに統一感がなくなって印象が下がったりするので、トータルで見れば一番安い選択肢ですよ」
という方向に持っていくとクライアントさんも納得してくれる確率があがるかなと思います。
AI とクライアントと、これからどう付き合っていくか
法律と契約だけで縛るには、もう限界がある
正直、「改変するな」と契約で縛っても、技術的にはクライアント側で AI を使っていくらでも改変できる時代です。一から AI で作ってしまう選択肢も現実味があります。
しかも契約を厳格化すればするほど、「うるさい制作者」 と思われる可能性も増してしまいます。
ここから先は「縛る」より 「付き合い方を変える」 発想が必要なのかな、と思っています。
AI 使うクライアントを敵にせず、提案の一部に組み込む
残念ながら AI を敵視しても、何も解決しないので、
AI とうまく付き合って提案価値を上げる側に回りましょう。
実際のところ、クライアントによる AI を使った改変に制作者が反発する大きな理由は以下の2つかなと思います。
- 自分の作品が勝手に改変されるという嫌悪
- 勝手に改変して使われるとその分自分がやるはずだった仕事=収入がなくなる という実益
でもまぁクライアント側が AI で自分の思うように作りたいというのもわかる。
しかし、先述の通りそれをそのまま使われるとブランドが崩れてクライアントのためにもならない。
ではどう付き合うのがいいのか?
例えば
クライアント
修正したいポイントがあれば AI を使ってご自身で納得の行くまで作ってもらってかまわない。
ただし、それはあくまで「指示書」のようなものとして扱う
制作者
- デザイナーがプロの目線でブランドとして問題のある内容などを含んでいないかを確認し、あれば指摘してフィードバックする
- それを元にちゃんとしたデータを起こす
という運用にすれば、クライアントには以下のメリットがあります。
- 自分の求める形を納得いくまで試した上で制作者に伝えられるので、制作者から上がってきたものが「思ってたんと違う」という事態を以前よりも格段に減らす事ができる
→ 今までは見積もり金額に対する修正回数の制限や、修正都度追加費用の場合は予算の都合上妥協せざるを得なかったり、負担を制作者側に押し付けて関係が悪化するというケースを大幅に解消できる - プロの目線で、そのまま進めると何がまずいのかをチェックする事で、ちゃんとデザインの品質を保つ事ができる
- 印刷物なら印刷用データとしての専門的なルール、Web なら SEO やアクセシビリティに関わる専門的なルールなどがあるので、それを無視して自身で実施して結局修正が必要になってトータルで余計コストがかかるというような事態を避けられる
なので、「まったく使うな。全部やるから!」って言うとクライアント目線では
「いやポジショントークでしょ?」とか「仕事奪われるのが嫌で権利ちらつかせてるんだろ?」と思われてしまうので、そうではなくて、
「我々が監修したり、データの調整作業は発生するので、トータルの費用としてはそんなに安くはならないケースが多いとは思いますが、先述の通りクライアントさん側で具体的なイメージに落とした上で相談くださったり、それに対するプロとしてのフィードバックをする事で、ブランド理解が深まったりするので、同じ費用でも成果物のクオリティや満足度は格段に上がりますよ」
みたいな話をする事で、実際その方が双方メリットありますし、クライアントさんと良好な関係で継続的なお仕事をできるのではないかなと思います。
「あなたの作品を守るために契約を厳しくしました」より、
「あなたのビジネスを成功させるために、こんな関係を作りませんか」
と提案する方が、よっぽど刺さるんじゃないかと。
再利用は自由でいい。代わりに「AI に渡す情報」を売る
今回の件でいろいろ考えて、個人的に新しい商材の1つかなと思ったのは「改変の際に AI に吸わせる情報」です。
従来は「改変するな」「再利用するな」と制限する方向が法律的にも主流ですが、
「再利用は自由にどうぞ。ただし、AI に渡す情報は別商品として売ります」
みたいなのもある程度アリなのかなと。
ただし、ここでいう「自由」は、あくまで自分たちが契約で自由化できる範囲の話です。第三者素材、フォント、写真、商標、機密情報、AI 学習利用の可否などが絡む場合は、それぞれ別途確認が必要です。
以下の要素が具体的に売れそうかなと思います。
- ブランドコンセプト そもそもどういうコンセプトを元に事業があり、それを踏まえてどういうコンセプトでデザインするのか
- ブランドガイドライン(色・タイポ・トーン & マナーの構造化資料)
- AI 用プロンプトテンプレート集(このブランドで AI に画像生成・編集・コピー作成する時の標準プロンプト)
- デザイントークン(JSON や Figma Variables 等の構造化データ)
- カスタム AI モデル / LoRA(ブランド専用に fine-tune した生成モデル。やや未来寄り)
- 使用ガイド+ライセンス(「AI でこう作っていい/これはダメ」の運用ルール)
クライアントは AI で派生物を量産できて、一貫性もかなり保てる。
これを売って手離れにするという方向もあれば、それでは漏れるチェックもあるので、先述の通り AI に投げるデータは売りつつも、継続してブランドや出力データの品質保持に関わるという方向もあると思います。
「揉め事」から「事業機会」に
結局、戦略の説明力と運用責任を磨き続けるしかない
ここまでの付き合い方を実現するには、結局二つの力が要るんですよね。
戦略の説明力:「なぜこの色か」「なぜこのレイアウトか」を、ビジネス目標と紐づけて語れる力。
運用への責任:作って終わりでなく、運用フェーズまで伴走できる姿勢。
これが出せない制作者は、契約があっても、法律があっても、新戦略があっても活かせない…。
AI 時代も結局のところ、ベースは 「人として信頼される仕事ぶり」 なんだと思います。
まとめ — 嘆く前にやれることは、こんなにある
非常に長くなりましたが最後に振り返りです。
「納品したデザインを AI で改変された」問題に、僕たち制作者がどう向き合うか。
- 双方の前提のズレを理解する
- 法的根拠(同一性保持権)を説明の引き出しに持つ
- AI 改変の弊害をトータルコストで語れるようにする
- 契約を予防策として整える(文化庁テンプレートなど)
- クライアントにはクライアント自身での改変を禁止するか許可するか先に並べて提案する
- AI を敵にせず、提案の一部に組み込む
- 再利用を縛るのでなく「AI に渡す情報を売る」新戦略も検討する
- 戦略の説明力と運用責任を磨き続ける
つまり何が言いたいのかというと…
嘆くより、できることはいっぱいある と思います。
デザイナー目線だけで燃えていても、ループから抜けられない。
AI もクライアントも、敵にしないで上手に付き合っていきましょう。
改変問題をマイナスに捉えるのではなく、この問題をきっかけに 「揉め事」から「事業機会」に変わる といいですね。
「ブランドの番人」というポジションが、これからジワジワ広がるといいなと思います。
みなさんの仕事が長く愛される存在になりますように。
おまけ — カスタマイズして使えるメール例文
「で、結局クライアントに何て伝えればいいの?」というお悩みに、明日から使える メール例文のたたき台 を置いておきます。
新規案件の見積もりに添えるもよし。
既存クライアントへのご案内として送るもよし。
これは契約条項そのものではなく、あくまで説明文のたたき台です。案件・関係性に合わせてカスタマイズし、実際の契約書に落とし込む場合は専門家確認も検討してください。
件名:弊社制作物に関する生成AIでの改変の扱いについて
〇〇株式会社
〇〇様
いつもお世話になっております。
[自社名] の [自分の名前] でございます。
近年、生成AIツールの普及により、納品させていただいたデザイン・
イラスト・テキスト等の制作物について、クライアント様側で生成AIを
使って改変・派生展開されるケースが増えてまいりました。
[自社名] としましても、生成AI時代に合わせて制作物の取り扱いについて
事前にお伝えしておくほうが、お互い気持ちよくお仕事を続けられると
考え、ご相談させていただきます。
【背景:著作権法上の建付け】
制作物が著作権法上の著作物にあたる場合、その改変
(生成AIによる改変を含む)は、契約に明示がないと、
同一性保持権や翻案権等との関係で、著作者(弊社)の同意が
必要となる場合があります。
また、「全著作権譲渡」と契約に記載されていても、著作者人格権は
譲渡できない建付けですので、改変を広く認める場合には、
著作者人格権不行使特約や改変範囲の合意を別途整理しておく
必要があります。
また、生成AIで改変された場合、ブランドの一貫性の毀損、印刷・実装
仕様との不整合、機密情報の流出リスク等が発生するケースがあり、
結果的にトータルコストが膨らむ可能性があります。
【取り扱いのパターン】
弊社では、ご要望に応じて以下のようなパターンを組み合わせて
ご提案しています。
▼ パターン A:クライアント様側で自由に改変・再利用していただく
- 著作権譲渡+著作者人格権不行使特約を契約に含めます
- 改変による品質リスク・法的リスクは、契約上、
クライアント様側のご責任となる形で整理します
- 料金:通常料金に上乗せとなります
▼ パターン B:改変・派生展開は弊社で対応
- 著作権は弊社に留保、ご利用範囲を契約で取り決めます
- 改変が必要な場面では、弊社が責任を持って対応いたします
(追加見積もりにて)
- ブランドの一貫性・品質を弊社が継続的にチェック
- 料金:通常料金(パターン A より抑えめ)
▼ パターン C:クライアント様の AI 活用は「指示書」として活かし、
最終調整は弊社で(ハイブリッド/個人的におすすめ)
- クライアント様側で AI を使って納得のいくイメージを作って
いただき、それを「指示書」として弊社に共有
- 弊社はブランドの観点でチェック・フィードバックを行い、
実装・印刷・運用に耐えるデータとして仕上げます
- クライアント様の納得感と弊社の品質保証の両立が可能
- 料金:パターン B と同程度(イメージ起こしの工数が減るぶん、
抑えられるケースも多いです)
【ご相談】
差し支えなければ、今回の案件(または継続のお取引)について、
いずれのパターン(あるいは組み合わせ)で進めていくのが良いか、
ご相談させていただけますと幸いです。
ご質問・ご要望等ございましたら、お気軽にお知らせください。
引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
[自分の名前]
[自社名]
[連絡先]
カスタマイズのポイント
- 料金感の表現は、案件規模・既存クライアントとの関係に合わせて調整してください
- パターン A/B/C のうち、どれをメインに推すかは案件・関係性で調整。本文の通り、C(ハイブリッド)は個人的にいちばんおすすめ です
- 既存クライアントには「これまでの案件についても、改めて整理させてください」と一言添えるとなお丁寧
- イラストレーターさんの場合は 「イラストの作風保持」「二次利用の許諾範囲」 のような業態固有のポイントを強調するとさらに刺さります
- WordPress などの Web 制作なら 「運用フェーズでの一貫性・SEO・実装互換」 にも触れると説得力アップ
これで、改変問題で揉める 前に 「弊社のスタンス」を共有できます。
事前共有こそ、信頼関係の第一歩、ですね。
ではでは、また!
本当に最後に
本記事は普段クライアントワークをほとんど行わない弊社の妄想による机上の空論です。
参考にする際は自己責任でよろしくお願いいたします。
この記事で僕が一番言いたいのは「弊社製品の事を知って、良かったら買ってくださいね!」という事です。
よろしくお願いいたします。
この記事を書いた人
- 代表取締役
-
名古屋のウェブ制作会社数社に10年程度務めた後、株式会社ベクトル設立。
企画・運営・コンサルティング〜WordPressを中心としたシステム開発まで幅広く携わる。
[ 著書 ]
・いちばんやさしいWordPressの教本(共著)
・現場でかならず使われているWordPressデザインのメソッド(共著)
[ 最近のWordPressコミュニティでの活動 ]
WordCamp Tokoy 2023 セッションスピーカー
WordCamp Asia 2023 セッションスピーカー(LT)
WordCamp Niigata 2019 セッションスピーカー
WordCamp Haneda 2019 セッションスピーカー
WordCamp Osaka 2018 セッションスピーカー
WordCamp Kyoto 2017 セッションスピーカー
他


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